「ハマスの選挙勝利:明快さを求めた投票」

Hamas Election Victory: A Vote for Clarity
アリ・アブニマー / Ali Abunimah

2006年1月26日
─ナブルス通信2006.2.1号による─


「ハマスの選挙勝利を考える」

1月25日に行われた第2回パレスチナ評議会選挙は、東エルサレムでの選挙活動への妨害(ハマス候補者を認めない、他の候補者の拘束)などがありながらも、投票率74%で「民主的」に行われました。

その結果、132議席のうち、ハマス(イスラーム抵抗運動)が過半数に近い74議席を占め、独立系の関係当選者を合わせると80議席となり、ファタハの43議席を大きく上回りました。比例区では大きな差はなかったものの、選挙区ではほとんどの場所でハマスの圧勝。

この結果は国際社会にも激震を起こし、ハマスが今後、どのような立場を取るかによって、自治政府そのものへの支援打ち切りなどがEUなどから取りざたされています。

この結果をどう考えるか。米国に在住するパレスチナ人であり、米国の中東政策に関するライター、コメンテーターであるアリ・アブニマー氏による分析をお届けします。[ナブルス通信]


「ハマスの選挙勝利:明快さを求めた投票」


アリ・アブニマー

エレクトロニック・インティファーダ
http://electronicintifada.net/v2/article4425.shtml

Ali Abunimah
Hamas Election Victory: A Vote for Clarity

2006年1月26日


パレスチナ自治政府評議会選挙におけるハマスの勝利に、誰もが「これからどうなるんだ」と口にする。それにたいする答え、そして、選挙の結果が良かったのか悪かったのか、その判断は誰がその疑問を差し挟んでいるのかによって大きく左右される。


ハマス勝利は予想されてはいたが、勝利の規模は、広く言われるように、「衝撃的」だ。ハマスの劇的な勝因はいくつかあげられるが、パレスチナ運動において何十年も支配的な立場にあり、傲慢にも、自らを議論の余地のない正統な指導者とみなすようになったファタハの腐敗、シニシズム、戦略の欠如に対して有権者が幻滅を抱き、嫌気がさしていたこともそのひとつだ。


しかし、選挙の結果はまったくの驚きではなく、最近の出来事がすでに暗示していた。たとえばヨルダン川西岸地区北部のカルキリヤ市だ。イスラエルの入植植民地に取り囲まれていたが、コンクリート製の隔離壁に包囲が完成し、カルキリアの5万人の住民はイスラエルが管理する巨大なスラムの囚人にされてしまった*1

カルキリヤの市議会は長い間ファタハの牙城だったが、壁の完成後、昨年行われた市議会選挙で有権者はすべての議席をハマスに与えたのだ。この「カルキリヤ効果」が今や占領地全域に波及し、伝えられるところによれば、ハマスは選挙区から選ばれる議席を実質的に独占したようだ。だから、ハマスの勝利は、屈服を強要するイスラエルの努力に対するパレスチナ人の抵抗の決意の表明であり、ファタハに対する不信任なのだ。ハマスの勝利は紛争の原点をあぶり出す。それは占領があり、抵抗があるということだ。


占領下のパレスチナ人にとって、ハマスの勝利がどんな意味をもつのか、まだはっきりしない。選挙の結果に基づき、パレスチナ「政府」が組閣される、というように、まるでパレスチナがすでに独立した主権国家であるかのように扱うことが現在では広く行われている。

しかし、政府の最低の義務が国民の生命、自由、財産を保護することにあるならば、パレスチナ自治政府はこれまで、とうてい政府と呼べるような代物ではなかった。自治政府は誕生した時から、イスラエル軍が自分達の町や難民キャンプのまん中で行う日常茶飯な殺傷からパレスチナ人を守れなかったし、入植者の植民地として押収される土地を1ドゥナムさえ守れなかったし、過去10年、イスラエルが根こそぎにした100万本以上の木の苗木ひとつすら守ることはできなかった。*2

むしろ、パレスチナ自治政府は、パレスチナの抵抗を押しつぶし、占領地域におけるイスラエルの植民地化を恒久化し、安全にするというイスラエルのコンセプトによって作られたのだ。ハマスは自治政府がそんな形で続くことを許さないことは確実だが、自治政府をイスラエルに対する抵抗運動の一部に変換することができるかどうか、それは定かではない。ハマスはイスラエルに対する一方的な休戦をこの1年間守ってきたが、イスラエル側が真に休戦に合意するなら、それを継続する意志を示している。強い立場に立つハマスは、明らかにそのような申し込みが可能だと信じており、戦術的にも全面的な武装抵抗を再開する時期や方法をはっきりしないでおくほうが有利なことを知っている。


ファタハの影響下にあるパレスチナ自治政府の治安部隊のなかには、ハマスが率いる政府に従おうとしないものがいるかもしれない。自治政府の中に残る構造が崩壊し、民兵組織に分割されることも予想される。選挙の結果を尊重しないと公言するイスラエルやアメリカは、そのような内部対立を助長することに興味を示すかもしれない。イスラエルは、ハマスの勝利を口実に、これまで以上の抑圧をおこない、西岸地区ではできるだけ多くの土地にできるだけパレスチナ人人口を少なくする土地収奪を目的とする壁の建設、入植植民地の建設に拍車がかかるだろう。そんな展開になれば、イスラエルとパレスチナのあいだで暴力的な紛争が劇的にエスカレートする危険性がある。


パレスチナ人の多数は離散し難民や亡命者として暮らしている*3が、これらの人は紛争解決へのプロセスから次第に除外され、取り残されてきた。イラク人について、アメリカとその同盟国は、国連の援助のもとで、「国外の有権者」が選挙に参加できるよう驚異的な努力をしたにも関わらず、同じ勢力は、パレスチナ難民に声を与えることには関心を示さなかった。パレスチナ難民のほとんどは、ファタハがイスラエルとの和平交渉の課程で自分たち難民の[帰還の]権利を売り払うだろうと思っており、ファタハには、こういう人たちの参政を強く要求する動機はなかった。難民が人口の90パーセントを占めるガザで誕生したハマスが、これらの国外離散者の懸念に明瞭にこたえる政策をとりあげるのかどうか、それはまだわからない。


「国際社会」──と言っても、たいていの場合、それは米国、欧州連合、ロシアとコフィ・アナン国連事務総長のカルテット(四者)のことを指す──にとって、選挙結果は大誤算だった。カルテット、そして、カルテットの知的なたわ言のほとんどを生み出す資金豊富なNGOやシンクタンクの一群は、イスラエルの占領を終結させるのではなく、パレスチナ人を「更生する」ことで紛争を解決しようとするアプローチを築き上げてきた。

これらの勢力は名目上ニ国家制による解決を約束しながら、イスラエルにたいしては土地の没収や植民地の拡大を止めるように圧力をかけるでもなく、その一方で、ファタハ率いるパレスチナ自治政府を終りのないゲームに引きずり込み、パレスチナ人は自分たちが基本的人権を与えられるに相応しいことを証明するためになんでもやらなければならないようにしむけた。この和平交渉産業は昨夏、イスラエルがガザから8000人の入植者を撤退させた時、その戦術を歓呼の声をあげ、イスラエルが西岸地区にこれまで以上の数の入植者を送り込み、実質的にニ国家制による解決を不可能にしていることについては沈黙した。


このゲームの主な目的は、公正で長続きする平和をもたらすことではなく、カルテットは地域にとっても世界にとっても絶えることのない懸念の的である紛争の解決に何もしていない、という嫌疑に対し予防線を張っておくことだけだ。このカルテットが真の平和を目指すなら、イスラエルに面と向かい、責任のある行動をとらせることができるが、それをやるだけの政治的な意志に欠けている。

ファタハがこのゲームにおいて、囚人であると同時に不可欠なパートナーであり、共犯者であったことはまったく疑いがない。そうでなければ、なぜ、アメリカはここ数ヵ月のあいだにいくつものプロジェクトに何百万ドルも使い、票を金で買うようなこと*4までして、必死にファタハを支えようとしたのか?また、なぜ、欧州連合は、パレスチナ人がハマスに投票するならば援助を止めると脅迫したのだろうか?ほとんどのパレスチナ人は、交渉に次ぐ交渉、何億ドルもの対外援助にもかかわらず、これまでにない規模の土地が収奪され、自分たちが以前にもまして貧しくなり、自由でなくなったことを身をもって知っている。この手の贈収賄と恐喝がパレスチナ人にはまったくきかず、むしろ、逆効果になり、ハマス支持を増やしたのだと言えそうだ。


ハマスの勝利は、紛争の責任をイスラエルの植民地化からパレスチナ内部の病理にそらそうとする企みを根底から覆すものだ。しかし、和平交渉産業は簡単にはあきらめず、今度はハマスに向け「責任のある」行動をとれ、立場を「やわらげろ」と呼び掛ける。それはすべての抵抗をやめ、これまでファタハによって演じられてきたおとなしい共犯者の役を引き受けろということにほかならない。


アメリカはすぐに「イスラエルの承認」をハマスに突き付けたが、それは時計の針を25年戻すようなものだ。当時、PLOを無視して和平交渉から閉め出すための口実として、まったく同じ要求が使われた。しかし、ハマスが見てきたように、PLOはこれらの要求をすべて飲んだのに、イスラエルの占領はすこしも緩まず、アメリカのイスラエル支援も少しも減っていない。ハマスがアメリカの要求を飲むことはまずなさそうで、もし仮にハマスが飲んだとしても、それは多分、占領により悪化する現場の状況に応える新しい抵抗グループを生み出すだけだろう。

 

 




※[アリ・アブニマーAli Abunimah は 「エレクトロニック・インティファーダ(EI)」 の設立者のひとりで、中東、米国のアラブ政策に関するライター、コメンテーターであり、シカゴ大の研究員。パレスチナ人を両親に持ち、米国で生まれ、ヨーロッパで育った]

原文:http://electronicintifada.net/v2/article4425.shtml

翻訳:リック・タナカ (リック・タナカ「南十字星通信」より改変)


[編集者註]

*1… カルキリヤの状況については
http://palestine-heiwa.org/route181/200601230025.htm#wall2

*2…この5年間にパレスチナで引き抜かれた木 135万5290本(パレスチナ・ナショナル・インフォメーションセンター調べ 05年9月末)

*3…350万人とも450万人とも言われている。2001年度PASSIA( Palestinian Academic Society for the Study of International Affairs)統計によると、占領地とイスラエル領内を除いても450万人にのぼる。

*4…ワシントン・ポスト紙が1月22日付で報じたことによると、米国政府はUSAIDを通じて、ファタハに選挙資金とみられておかしくない「支援金」を選挙前に出していた。
"U.S. Funds Enter Fray In Palestinian Elections " By Scott Wilson and Glenn Kessler (The Washington Post)

※今回のパレスチナ評議員選挙についての特集ページ(英語)
http://electronicintifada.net/bytopic/416.shtml


◇Editor's Note

関西での「ルート181」初上映が1月末に行われました。この映画の中では

「彼らを掃き出すんだ。一帯をつながったユダヤ人の領土にするため、彼らを追い出す必要があったんだ。我々は人間の鎖を作った。」

と1948年のパレスチナ人の追放を語るユダヤ人老人が登場します。このシーンの記憶がさめやらぬ1月30日、大阪では公園に住んでいた野宿者たちを追いだすために行政代執行が行われました。ニュースのなかで「人間の鎖を作って、市職員たちが野宿者に向かっていきます」という言葉が流れ、また粗末なブルーシートのテント小屋がどんどんと取り壊されていくシーンが流れたとき、私の目はテレビに釘付けになりました。何らかの理由に疑いを挟むことなく、人の生きてきた場所を壊していく行為がここでも行われていました。
公園の住まいを失ったヤマさんを中心に「なぜ公園に生きるのか」ということを描いた短いドキュメンタリーの内容を書き出しています(この30日に関西テレビの「スーパーニュース ほっとカンサイ」で流れたものです)。よかったらご覧になってみてください。
http://0000000000.net/p-navi/info/news/200601301932.htm



「ルート181」の関西上映をきっかけにして、「『ルート181』から読み解くパレスチナとイスラエル」というウェブサイトの制作を始めました(パレスチナ情報センターさんとの共同作業)。
http://palestine-heiwa.org/route181/

映画を見ていなくても、わかるようになっています。まだ、最初の「イスラエルによる軍事占領」というページしか完成していませんが、順次公開予定です。完成すれば、パレスチナとイスラエルに横たわっている問題の総索引的なものになるかも…(捕らぬ狸の…なので、野望です)。


(編集責任:ナブルス通信

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